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訪問看護の未来

現在、日本の医療業界は在宅医療に本格的に舵をきったといわれています。
入院期間を最小限にとどめて、在宅で過ごす。
病気とともに在宅で暮らし、在宅で死を迎える。
看護師の活躍の場も病院・クリニックから在宅へと広がりを見せはじめています。
病棟勤務のナースであっても、在宅での看護について知っておかなくてはならず、また訪問看護師との連携が重要となってきます。
このインタビューコラムでは、東京の武蔵野市で今年2月に訪問看護ステーションを立ち上げた丹内まゆみさんに訪問看護の現実とこれからの可能性について尋ね、病棟看護師と訪問看護師の連携をうたう「看看(かんかん)連携」を充実させていくにはどういう方法がよいのかを考えます。このコラムを読んで、看護学生にも訪問看護の現実を知ってもらい、自らが目指すナース像に彩りをくわえてもらいたいと思います。

―― 最初は病棟看護師としてお勤めでしたね?

看護学校卒業後21歳で都立病院の外科病棟に勤務しました。今は大半がそうですが、当時はまだ新しかった「プライマリーナーシング(受け持ち制)」を取り入れていたので、ぜひその病院で働きたいと思いました。新卒ですぐに患者さんを1人で受け持ったので責任は重大でしたが、とてもやりがいを感じましたね。受け持ちの患者さんの病気について勉強したり、最初から医師とも意見交換を積極的に行いました。これは、現在の訪問看護師が1人の利用者さんを受け持つという体制に通じていて、私にとってかなりいいスタートを切れたと思います。

―― 3年で退職された。

業務はとても充実していたので、どうして辞めたのと聞かれても、今でもよくわからない。ただ、病棟の長い廊下を見て、「わたしはずっとここにいるのだろうか?」とふと思ってしまったんです(笑)。24歳と若かったので自分がどのくらい恵まれているかってことがわからなかったんですね。いろいろなことに興味がある性質で、好奇心は旺盛な方でした。その後、1年間、ワーキングホリデーでオーストラリアに行きました。看護とは無縁で、ツアーガイドなどをしていましたね。それから帰ってきて、民間の中・重症者の高齢者・障害者(当時はまだ介護保険はない)への巡回入浴サービス会社に看護師として入りました。入浴可否を判断し、入浴前後の状態を観察する役割でしたが、「この人もう少しこうしたほうがいいのに、ああしたほうがいいのに」ってことが見えてきてしまう。けれど、業務としてはお風呂のこと以外には関わってはいけなかった。ちょっとさわっただけで「殺される~」って叫ぶ利用者さんがいて、「この家で何が起こってるんだろう?」と気になるわけですが、それ以上は踏み込めない。そんなこともあって、その後、医療法人の訪問看護ステーションに勤務することにしました。

―― 病院にはもどりませんでしたね。

箱ものに戻ろうとは思わなかったですね。最初の病院でがん終末期の患者さんがおうちに外泊する場面を経験したことも影響したかもしれません。それにワーキングホリデーで超自由人になって、価値観が変わりました。その前までは、病院という箱ものに通って、決まった時間働くことに違和感は感じなかったし、ブランドものの買い物とかもして、けっこうふつうの若い女の子的な生活もしていたんですよ。

―― 医療法人の訪問看護ステーションでは、民間の入浴業務でたまったうっぷんは晴らせましたか?

気になってたこと全部、思う存分できてすごく楽しかったです。まだ、訪問看護が高齢者中心のためのものといった時代でした。その訪問看護ステーションでは高齢者に加えて、悪性腫瘍末期や難病など、医療ニーズの高い患者さんを積極的に訪問していたんです。当時としてはけっこう画期的でした。15人くらいスタッフがいて、完全受け持ち制だったからやりがいがありましたね。家族ケアもここで学びました。

―― そして2年後、またまた異業種に転身を?

地方でダイビングのインストラクターを3年やりました。看護師の業務はまったくやっていませんでしたが「接客とはなんぞや」「お客さんとはなんぞや」を学んで、これも今の業務に役立っていると思います。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305