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訪問看護の未来

オンコール対応の医療用携帯と電子カルテ

オンコール対応の医療用携帯と電子カルテ

―― 24時間365日オンコール対応されていますね。

当番制で対応しています。電話でつながっていると利用者さんに安心してもらえますし何より在宅で過ごすことを選択する後押しになります。それに、困った時にかけてきていただける電話があるというのは、具合の悪い方がどうなっているのかが分かるので、実は私たち訪問看護師たちにとっても安心なんです。病棟のようにタイムラグがなく、いつでもどこでも駆けつけるというわけには行かないけれど、必要と判断した時は訪問させていただいています。おおむね電話で利用者さんの話を聞いて対応をお伝えすることでおさまることが多いのですが・・・。

―― 電話が通じるとほっとする利用者さんが多いでしょうね。

ご主人が入院中に急に具合が悪くなって「人工呼吸器をつけることになった」と、驚いた利用者の奥さんから電話が入ったことがあります。まだまだ人工呼吸器をつけるまでではないと思っていたので、私も予想外でした。電話を受けた時、研修中で身動きがとれなかったので「今行けないけど研修終わったら必ず行くからね」と言って夕方病院に駆けつけました。そういったアクション起こすことで、家族の不安が軽減されることかあります。病院にも看護師はいますが、あくまでも病院サイドの立場ですね。私たち訪問看護師は家での様子もよくわかっているし、なじみの関係があるからこそ、家族サイドに立った視点で話をし、家族の思いを聞くことができる。だから、緊急の場面などでは余計ホッとされるのではないでしょうか。「ああ、電話すればなんとかなるんだ」と思ってもらえる。そういうやりとりの積み重ねがあれば、大事な場面で信頼してもらえるんです。

―― 訪問看護は就業時間があいまいという印象があります。

もちろん就業時間は決まっていますし、勤務時間内に業務を終えるのが第一ですね。ただ、信頼関係がぐっと深まることって経験上、「時間外」が多いように思います。私たち訪問看護ステーションの仕事はほとんど保険制度の中で行っていますが、場所や時間が決まっている制度の中で動いているだけでは分からないことがあると思います。時には時間外や制度を超えたところで動かざるを得ないこともあるし、自分の中で「今、動かなければっ!」という思いから動くことってありますね。先程のケースの方もそうです。

―― 訪問看護を受ける側も制度の中での関係と割り切っているところがあります。

近頃は、息子さんひとりで親御さんを看ていることが多くなってきていて、男の人だと、なかなかうちとけられなかったりします。もともと弱味を人に見せることを潔しとしないし、「仕事」をこなしている訪問看護師や医者に遠慮があったりもします。往々にしてあることですが、介護に関して至らない自分を責めたりして、介護者がなかなか心を開いてくれないこともあります。そういう場合は、がんばっているってこと認めるような声かけをしながらアプローチして、罪悪感から解放してあげるようにもっていきます。「介護者の心をつかむ」というのも訪問看護師の役割だと思っています。

―― そう思うきっかけになったエピソードはありますか?

以前、お母さんの介護をしていた息子さんへのアプローチ不足で、在宅での最期を希望していた利用者さんが病院で最期を迎えなければならなかったことがあります。訪問診療を導入すれば在宅での看取りの可能性があったのですが、息子さんが決断しきれずに時間が経過してしまいました。休みの日にお見舞いに行った時、帰りに息子さんが駅の改札まで送ってくれました。もうお母さんが最期の時まで間もないころだったのですが、駅の改札でわーわー大声で泣きだしたんです。大の男が人目もはばからず。病院にきてくれたことにとても感謝してくれて、それで感情がばーっとあがってきて、わーっと泣いちゃったんだろうと思います。

―― 「制度外」の効果が息子さんの心を開いたのかもしれません。

そうですね。だから、もう少し前から積極的に介入していたら、あるいは介入の仕方を工夫していたら、訪問診療を早い段階で導入できて、病院に戻ることなく在宅での看取りができたかなって思います。息子さんにもっとアプローチして、心の中をもっと見て、話してみればよかったと。必ずしも「時間外」「制度外」を目指す必要はないけれど、訪問看護師はその効果を十分知っている必要があると思います。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305