車

訪問看護の未来

みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽのメンバー

みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽのメンバー

―― 丹内さんが、訪問先で心がけていることは何ですか?

いろいろありますが、「おやっ?」と思ったことを見逃さず、スルーせずに介入するということでしょうか?

―― たとえば?

いつもにこやかに迎えてくださるご家族さんにある日笑顔が消えて、なんだかご本人さんもいつもと雰囲気が違う。「おや? なんだろうこの張りつめた空気は」と思って、「何か気がかりなことがありますか?」とお聞きしても「大丈夫」とおっしゃるばかり……。それでもやっぱり、おかしい……。少しご家族さんとお話する時間を作って、日々の介護への労いの言葉がけをすると、堰を切ったように、介護への思いを話され、「思わず手がでてしまって自分でもびっくりした」など泣きながらお話をしてくださいました。結局、ケアマネージャーはじめ関係機関と情報共有をし、定期的にデイサービスやショートステイを利用していただくことにして介護負担を少し軽減し、この方は今でもご自宅の生活を続けていらっしゃいます。

―― 変だなと思ったら、必ず確かめるんですね。

時にワーワー騒ぐことも必要です。「大騒ぎになるなぁ、たんぽぽさんに頼むと」って思われていないとも限らないんですが(笑)。何もなかったらそれでいいんです。けれど、騒がず、スマートに訪問することによって、救えたかもしれない苦しい状況を見逃すってことは避けたいですね。ちょっと騒ぎすぎじゃない? と言われても、見過ごすよりはいい。介入し、時にワーワー騒ぐことを繰り返しているうちにアセスメント力が高まり、気がつけばスマートな対応ができるようにもなります。けれども、最初から「事なかれ主義的」な対応は、利用者さんや訪問看護師自身にもいいことではないように思っています。

―― 利用者の生活に介入していくわけですが、気をつけていることはありますか?

介入する際は、連携を心がけていくことは大事です。ある意味保険をかけておくということです。たとえば、生活保護の人を看る場合に、何かエピソード(いつもとちがう出来事)が起きた時、訪問看護の一事業所だけで動くには限界がありますね。なので、「生活福祉課のワーカーさんなど行政に報告しておいてね」ってスタッフに言ってあります。連携をして「ほう・れん・そう(報告・連絡・相談)」を常にしていれば介入をこわがらずにすむんです。それから、介入する場合、悪いことを想定しないと意味がない。楽観的になることはいいことだけども、病院と違って、いつも利用者さんの傍にいるわけにはいかないので、何かあった時に取り返しがつかなくなることがあります。

―― 利用者の力を信じて、自立した生活を守りつつ、最悪のことも考えて手をうっておくということですね。

そうですね。たとえば、以前、精神疾患の1人暮らしの利用者さんが、家で妄想めいた話をしているし、たまに薬をいっぱい飲んだりしているけれど、生活はなんとか成り立っているから、在宅療養であと1か月くらいは様子みることしようといった事例がありました。いくつか危ないかなというサインはあったけれど、受診もできているし、ごはんも食べられているようなので、大丈夫かなと。けど、ある日、1人で精神科の外来に行って、薬くれってお騒ぎして暴れてしまって、医療保護入院になってしまったことがありました。

―― 医療保護入院というのは、本人の同意なしってことですね?

はい。精神疾患の利用者さんの医療保護入院はなるべく避けたいところですね。医療保護入院では、本人の入院のイメージが「させられ体験」になることが多く、入院が嫌な印象になってしまいやすい。利用者さんの力を信じるのはいいことだけど、それが本当に本人の力なのかという疑問は持たないとなりません。本人の状態に気がついて、「わたしは○○さんをずっと見てきているけど、なんだか今とっても疲れているように見えるよ。もしかしたら入院が必要なんじゃない?」って促してあげるのが、本来の訪問看護の仕事じゃないかなと思います。そうすれば本人の納得したうえで、任意という形で入院できたかなと。

―― やや、スマートな訪問看護になってしまっていた?

あとで、担当看護師をまじえて話したんですが、その人の生活力、その人の力を信じたいって気持ちが強かったかなと。その人のやりたいようにやらせるんであれば、そのほうが看護師は楽ですしね。入院は本人にとっては嫌なことなのだから、そうしないでいるにこしたことはない。でも、それでは意味がないんです。これからも在宅で過ごせるように、「今は休む時なんじゃない?」って教えてあげられることが訪問看護師の役割として重要です。そのために、特に何にも起こってない日々、訪問して「何たべてんの?」「何してんの?」って生活を見ながら本人と話して、関係を構築しているのですから。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305